ストーリー
際立って優れたところも劣ったところもなく、凡庸を極めた一般人として、全く衆目を集めることのない人生を送ってきた筒井秀行。
その唯一の特徴は、極端なまでに人目を引くことのない存在感の薄さである。
ある朝、いつものように目覚めた秀行は、過去に経験したことのない
異常な『状況』に置かれている自分に気づく。
他人に全く認識されない――この世に存在しないも同然の状態。
姿は見えず、声は聞こえず、臭いも感じられず――秀行の存在に気づかない。
存在に気づかないというよりも、秀行に関する事象全てを
全人類が一致団結して無視しているかのような有様である。
しかし、秀行自身は間違いなくこの世に存在しており、
他人と直に触れ合うことすらできる。
そして、秀行と直に接触している者のみが、
秀行の存在を知覚することができる――というよりも、
秀行のことを無視できなくなる、という状態に置かれるのである。
何をやっても無視される孤独な『存在』。
だが、何をやっても誰からも咎められることのない『状態』。
世界で最も厳しく高度な警備網を平然と通り抜け、
世界で最も強大な権力を握る人間の前に堂々と立ち、
その眼前に銃口を突きつけても遮られることはない。
何人からも咎められることのない存在となった秀行は、
己の欲望を満たすためだけに行動し始める。
他人の家に堂々と立ち入って財布を盗むことも、
路上ですれ違った女を気まぐれに襲うことも、
気に入らないと思った相手を殴り殺すことも、
全ては衝動の赴くままに。